障害者の旅支え8年 ツアーの知恵袋、3千人送り出す
障害がある人でも海外へのツアー旅行に参加できるよう力を注いできた「草分け」の旅行会社員(60)が、31日に定年を迎える。8年前、職場の一角でたった1人で担当を始めた。今では社内に専門部署ができ、これまでに3千人以上を海外に送り出してきた。
「シンデレラ城のモデルにもなったドイツのノイシュバンシュタイン城は階段が157段。ビルの8〜9階くらいです」「ジュネーブ駅から高速列車のTGVに乗るには、約35センチのステップを上がらなければなりません」
全日空グループで旅行などを扱うANAセールス(東京都港区)の室井孝王(たかお)さんは、問い合わせに電話ですらすらと答えていく。車いすの客には「無理ですね」と言うかわりに「上らなくてもいい写真が撮れます」「一行が戻るまで、ふもとのレストランで休むこともできます」と提案する。情報を詳細に提供し、客が自分の能力や体調と相談しながらツアーのメニューを取捨選択できるように心がける。
最初からうまくできたわけではない。01年4月、前身の旅行会社で予約販売部に異動し、「障害者や高齢者の対応を」と命じられた。上司も部下もいない。外部からの相談窓口なのに専用の電話番号がない。障害者のツアーに関する知識も経験もなかった。
頭を切りかえ、会社に無断で名刺に「ツアーアシストデスク」と刷った。障害がある子どものキャンプにボランティアで参加し、福祉関係のセミナーに片っ端から顔を出した。「リウマチの人は階段よりもスロープの方がつらい」「脳性マヒの人は流動食をつくるためにミキサーが欠かせない」。足で知識を蓄えた。段差などの情報は現地に行って確認した。メジャーで測ると怪しまれるので、目盛りを書いたひもに重りをつけ、歩きながらさりげなく測った。
脳性マヒの人には「ミキサーを持って行きますよね。変圧器は準備しましたか」、弱視の人には「空港のゲート番号が読めないですよね。航空会社に案内を頼みましょう」といった言葉が自然に出てくるようになった。自由行動で客が困らないよう、現地の言葉で「救急車を呼んでください」といった例文をカードにして配るサービスも始めた。
「対応していると、お客さんの声のトーンが明るく変わってくる。うれしくてたまらなかった」
今では、大手旅行会社が「うちでは対応が難しい」と客を紹介してくるようになった。アシストデスクのメンバーは4人になり、直通の専用電話もできた。
利用客からは、定年を惜しむ声が上がる。脊髄(せきずい)損傷で車いす生活の松本尚男(ひさお)さん(65)=兵庫県=は2年前、グランドキャニオンのツアーに参加しようとしたが、バスと飛行機のことを考えてあきらめかけた。そこで室井さんは、手だけで運転できる障害者用のレンタカーを手配した。松本さんは自分で運転して大渓谷を堪能し、「度胸がついた」。
「最後の8年、いい仕事をさせてもらった。ハッピーなサラリーマン人生でした」と室井さん。現在は第二の「就活(しゅうかつ)(就職活動)」中だ。【出典:朝日新聞】
やっと、障害を持っていても旅が楽しめる時代になった。さあ、これからだ
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