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介護施設で老いを考えた:デイケア

◇自宅から通い、リハビリを

 これまで、介護施設に入所した高齢者の暮らしぶりを見てきた。今回は入所ではなく、自宅から介護施設へ通ってサービスを受けるデイケアの仕組みを紹介したい。

 訪問介護の3本柱といわれるのが「ホームヘルプ」「デイケア」「ショートステイ」である。

 ホームヘルプは、ヘルパーが要介護者の自宅を訪問して、衣類やオムツを替えたり、体をふくなど、介護の手助けをする仕組みである。

 デイケアは、要介護者を日帰りで施設に迎え、朝から夕方まで、入浴や昼食、リハビリなどのサービスをする仕組みだ。

 ショートステイは、要介護者が短期間(最長でも1カ月未満)介護施設で寝泊まりする仕組みである。

 3つとも主な狙いは、高齢者を介護する家族の負担軽減である。家族にも心身を休める時間は当然、必要である。家族が何らかの事情で家を空けなければならない時、同居する高齢者の面倒を見てくれる人が必要になる。「何らかの事情」とは、はずせない冠婚葬祭だったり、休暇を利用した旅行だったり、さまざまだろう。だが、その理由の中身は問われない。

 今回取材した宮崎市高岡町の辰元グループは、定員80人の老人保健施設の空きベッドを利用してショートステイを受け入れている。入所者の数は、退所や死亡のために常に増減している。一方、空きベッドを放置すれば直接、経営に響く。そこに、空きベッドを使うショートステイのメリットが生じるのだ。

 ショートステイの日帰り版ともいえるのがデイケアである。日帰り版には、厳密にはデイサービスとデイケアがある。二つの違いはメニューの中にリハビリテーションが入っているかどうかだ。リハビリつきがデイケア、リハビリなしでレクリエーション主体がデイサービスである。だが、その内容に大差はない。

 これらの訪問介護は、介護施設の入所者よりも介護度が低い人たち向けである。介護施設へ入所するよりも敷居は低い。辰元グループのある宮崎市高岡町内だけでも、デイケアが3カ所、デイサービスが8カ所も営業している。選択肢は多い。

 ただし利用できるのは介護保険証を持つ人である。その人の介護度などによって1カ月に使える日数も決まっている。

 辰元グループの老人保健施設ではデイケアは20人まで受け入れ可能だが、近年は平均10人前後しか集まらない。うち2、3人は、介護保険証を持たない高齢者である。「友だちが行くので私も行きたい」と望む高齢者のため、施設側の負担で受け入れているのだ。利用者本人に必要なのは390円の昼食代だけだ。いつの日か介護が必要になったときに、この施設を選んでもらうための、一種の先行投資ともいえる。この例のようにデイケアは「買い手市場」の状況にある。

 ◇利用のための手続きは?

 デイケアやデイサービスを利用できる施設は県内には多く、利用の敷居は低い、と前回書いた。

 では、利用を希望する人はどうすればいいのか。まず前提として、デイケアを利用できるのは「要支援・要介護」と認定された人だけである。

 その認定を受け、介護保険証を得る必要がある。

 65歳以上で介護が必要な人や、その家族は、まず地元の社会福祉協議会やケアマネジャーのいる支援事業所、介護施設などに相談するといい。教えられた市町村の窓口で介護認定を申請すると、ケアマネジャーが本人を訪問して介護度を調べてくれる。その結果に加え、主治医の意見書などをつけた書類を、各自治体の審査会が審査して「介護度1」「2」などと認定する。その後、ほぼ1カ月以内に「介護保険証」が本人に送られてくるはずだ。これが介護施設を利用するための「パスポート」となる。

 65歳以下40歳以上の人でも、脳卒中など特定の病気で介護が必要になった場合、介護保険証が得られるケースもある。

 デイケアを利用する人は、この介護保険証を基に、ケアマネジャーに利用プランを立ててもらう。利用プラン作成には本人の出費は不要だ。

 利用料金はどうか。たとえば宮崎市高岡町の辰元グループの場合、介護度5の人は月に最大27日利用でき、料金は1日1303円だ。介護度1の人は月に最大24日利用でき、料金は1日688円である。介護度が低い人の方が安い。最大でも月に27日なのは、日曜日は施設が休みだからだ。

 このほか希望者は、昼食・おやつ代390円や入浴介助代50円などが必要になる。食事代などは施設により値段が違う。

 以下、ある日のデイケアの光景を紹介しよう。まず朝早く施設のマイクロバスが、利用者を自宅まで迎えに行く。遠くは宮崎市佐土原町まで送迎の車を出している。

 午前9時、利用者が施設に集まってくる。デイケアは、辰元グループの老人保健施設の1階を使って実施している。デイケアの利用者が平均10人前後しかいないため、この老健施設の入所者からの参加希望者を加え、約20人が一緒にデイケアを受けている。

 全員がそろうと、屋内の広間にある大きなテーブルを参加者が囲む。10人は自力歩行ができるが、10人は車いすだ。参加者のうち、認知症でない人は3人だけである。鼻歌を歌ったり、口の中で何かつぶやいている人もいる。マイクを持った職員が「黒木さん」などと1人ずつ名前を呼び、出席を取っていく。状況が分からず、返事ができなくても「呼びかけること自体が大切だ」という。

 職員が全員の体温、血圧、脈などをチェックしていく。施設側は毎朝、これらを記録し、表にしている。異変をすぐに見つけるためだ。

 午前9時半、デイケアのメニューが始まった。

 ◇ある日の午前中の光景

 ある日のデイケアの様子を続ける。宮崎市高岡町の辰元グループのデイケアは、老人保健施設「信愛ホーム」の1階ホールで実施している。

 この日は自宅から送迎される高齢者8人に、同施設の入所者を加え、20人が参加していた。

 午前9時半、大きなテーブルを囲んだ高齢者たちを前に、マイクを持った職員の松原八重子さん(68)が話しかける。

 「おはようございます。ところで今日は何曜日でしたか」「何日でしたか」などと参加者に話しかける。だが、答えられる人は少ない。次に当日の新聞を広げて共通の話題を探す。一種の頭の体操である。「○○公園で桜が満開だって。今年はお花見が楽しみですね」「プロ野球の○○球団がやっと勝ったって。もっと応援しないと駄目ね」「お酒は長生きに効果があるという実験結果が出たそうですよ。○○さん、お酒は好きですか。どれくらい飲みますか」

 次々に話題を見つけては、参加者1人1人に親密に話しかけていく。漠然と話しかけるのではなく、個別の名前を呼び、直接1対1で話しかけるのだ。問いに応える人の一方、無言のまま、反応のない参加者も多い。それでも松原さんは、めげずに声をかけていく。

 午前10時、次は体操の時間だ。全員に段ボールのバトンが手渡される。ラップの芯(しん)の部分である。参加者はこのバトンを両手に持ち、松原さんのマイクの指示に合わせて両腕を高く上げたり下げたりする。「棒体操」と呼ばれる。バトンを持ったまま上体を左右に曲げたり、後ろにそらせたりする。「あまり無理をしないで。できるところまで曲げればいいんですから」と松原さんは声をかける。仕上げはバトンを片手に持ち、「エイエイオー」と言いながら腕を曲げ伸ばす体操だ。

 この「エイエイオー」は参加者1人1人が順番にやらされる。中には順番が来ても怒ったような顔で横を向いてしまう女性も数人いる。松原さんは苦笑しながら、次の人を指名する。

 この女性たちは指名されるたびに毎回「拒否」するが、松原さんは指名を省略して「パス」したりはしない。全員に声をかける。「拒否」が予想されるからといって指名をパスすることはその人の存在を無視することになるという。拒否も意思表示の一つであり、コミュニケーションの一種と考えるからだ。介護職員は「大人」の対応を求められる。すねている子供と、それをあやす親の関係のようにも見える。

 ただ、わが身を振り返れば、自分が介護される側になった時、抵抗なく「エイエイオー」と子供のように手を振り上げられるかどうか、自信がない。バカバカしいと思わず「リハビリの一種なのだから」と割り切る必要がある。参加する側にも「大人」の対応が求められるのだ。この問題については後述する。

 午前11時になり、デイケア参加者が最も楽しみな入浴が始まった。

 ◇ある日の午後の光景

 ある日のデイケアの報告を続ける。宮崎市高岡町の辰元グループのデイケアは、午前11時から入浴が始まる。

 介助を受けながら交代で入浴し、昼前にはさっぱりした顔がそろう。

 ここのデイケアは老人保健施設のホールを使って入所者と合同で実施している。昼食も老健施設の入所者と一緒にホールで取る。6人がけのテーブルが多数並べられ、入所者もデイケア利用者も、所定の位置に着く。自分で歩ける人、車いすの人などさまざまである。

 テーブルの上には清潔なナプキンが用意されている。入所者たちがたたんで整理したものだ。洗濯したナプキンの折りたたみは、入所者たちの役割だ。「リハビリをしながら入所者みんなの役に立つ」と思えば作業にも張り合いが出る。

 食事の前に簡単な体操がある。誤飲を防ぐ「嚥下(えんげ)体操」という。職員のマイクに合わせて、首を回し、肩を上下運動させ、両手を上げ下ろす。口を大きく開けて全員で大声を上げる。「パ、パ、パ、パ、パ」「タ、タ、タ、タ、タ」「カ、カ、カ、カ、カ……」。日ごろ声を出す機会の少ない高齢者にとって貴重な口の運動になるという。

 職員がメニューの説明をする。メニューは1週間分がホールのボードに書き出されている。その日はこんなメニューだった。朝食「麦ご飯、みそ汁、千切り大根煮、ノリの佃煮(つくだに)、牛乳」。昼食「麦ご飯、みそ汁、牛肉と春雨の炒め煮、キャベツのナムル」。おやつ「パンケーキ」。夕食「麦ご飯、かしわ汁、刺し身、ヒジキとがんもどきの煮物」。このうち、デイケア利用者が食べるのは昼食とおやつで、朝食や夕食は老健施設の入所者向けである。食事時には、利用者1人1人に持病のための薬が配られる。

 午後1時から2時までは、食後の休憩と昼寝の時間である。午後2時から3時までがリハビリとレクリエーションの時間だ。水前寺清子などの演歌が流れ始めた。レクリエーションには、日替わりでさまざまな集団ゲームが用意されている。この日はルーレットゴルフというゲームで、床にボールをころがし、穴に入れて点数を競った。

 参加者は全員、順番にころがすのだが、ここでも率先して楽しむ人と「拒否」の人がいる。「拒否」の人は自分の順番が来ると、ぷいっと横を向いてしまう。仕方なくその人を飛ばして次の人がボールをころがす。

 自由参加なので、嫌なら参加しなくてもいい。だが拒否の人たちも、その場の雰囲気に浸るのは好きなのだ。しかし自分が幼児じみた行為に踏み出すにはプライドが許さないらしいのである。午後3時、おやつを食べ、3時半には帰り支度が始まる。午後4時、マイクロバスなどで各自が自宅へ送られて行き、この日のデイケアは終了した。

 ◇利用者と職員、心通わせて

 今回はデイケア利用者の声と職員の声をそれぞれ聞いてみよう。

 宮崎市高岡町の辰元グループのデイケア利用者で、同町浦之名の児玉日出男さん(94)は、木曜と日曜を除く週5日デイケアへ通っている。

 「私は白内障のため、目がよく見えません。新聞を読むのも、よだきい。ここでの一番の楽しみは、おしゃべりと風呂の時間です。風呂は毎回入れるからありがたい」

 児玉さんによると、調理師の長女と二人暮らしだが、長女が仕事に出かける日中は、デイケアを利用している。自宅にいる週2日は、主に庭いじりをして過ごす。

 かつては精米業をしていた。5年前に90歳の妻を病気で亡くした。夕食のおかずは、長女が仕事帰りに買って来るが、自分で作ることもある。毎晩、焼酎のお湯割を1合飲むのが楽しみだ。体も頭もしっかりしており、昨年は長寿者を紹介するラジオ番組に出演した。

 「90歳を過ぎると、同年輩の男は珍しくなる。周りが女ばかりになるのが寂しいですね。年をとると、1年がたつのが早いのです。今は体が動くからデイケアにも来られるが、やがて動けなくなったら、ここの介護施設に入所するしかないでしょうね」と話した。

 一方、児玉さんたちにサービスを提供する職員の飛田浩邦さん(30)は、介護歴10年になる。高卒後、福祉の専門学校へ2年通い、ここに就職した。隣接する老人病院や老人保健施設を経験した後、デイケア担当になり、4年になる。

 「大小便の排せつ処理は、最初は衝撃でしたが、すぐに慣れました。ただし今でも慣れないのは、認知症の人たちとのやりとりです。仕事で手がふさがっている時に、理不尽な要求を耳元でがんがん言われる。相手は病気なのですが、僕も普通の人間なので、頭に血が上ることもあります」

 認知症には波があり、穏やかな日と荒れる日の落差が激しい。心が通じたと思い込んでいた相手から「裏切り」の不意打ちを受けた時、飛田さんたち職員は、とまどわざるを得ない。「相手は病気だ。まともな応対は無理なのだ」と割り切れれば、腹を立てないですむのだろう。だが相手を人間として「人情」を交えて接していればこそ、理解できないわがままに怒ったり、情けなくなったり、落胆してしまう。

 それでもこの仕事が好きなのは「やはり心が通い合う瞬間が忘れられないからだ」と言う。「入浴介助で、体を洗っている時に『いつもすまんね。ありがとうね』などと声をかけられると、しみじみと生きがいを感じます。さっき、かっとなったことなどは、すぐに忘れてしまうのです」

 ただ利用者には、すぐに周囲と打ち解けてデイケアを楽しめる性格の人と、そうでない人がいる。飛田さんの話を続けよう。

 ◇プライドが自分を苦しめる

 デイケアの際のレクリエーションには「幼児向け」と錯覚しそうなものが多い。体力の衰えた高齢者を楽しませるには、仕方がないのかもしれない。だが??。

 宮崎市高岡町の辰元グループのデイケアでは、段ボールの筒を頭上に掲げて一人ずつ「エイエイオー」と声を出していく練習や、ソフトボールをころがして穴に入れるゲームや、ラジカセから流れる演歌に合わせた踊りなどを実施している。

 「いい年して、こんなこと、やってられるか」と思うのか、レクリエーションの場に連れ出されても、ゲームには参加せず、顔を背けている人もいる。私も同じ立場だったら「たぶんこの人たちと同様、素直にはなれないだろうなあ」と同情しながら見学していた。

 かつては教師や警察官だった人たちが「エイエイオー」と声を上げながら、頭上に筒を掲げているのである。「ある程度、地位が高かった人は、老後も庶民的な所まではなかなか降りていけないようですね」と私が言うと、職員の飛田浩邦さん(30)は打ち消した。

 「いや、プライドの壁は、元の職業とは無関係のようですよ。年老いた現実を素直に受け入れられないのは、最初は誰でも同じです」。飛田さんは「本人が乗り越えるべき壁は、まず思考力も体力も衰えているという事実を受け入れることだ」と言う。そして「お漏らし」の例を挙げた。

 「排せつの調節ができなくなることは、本人の人格が壊れるほど悲しい衝撃です。多くの人が、その事実を認めようとしないほどです。下着が濡(ぬ)れているという光景が目の前にあっても『いや、私は漏らしていない』と言い張る。もちろん、漏らしたことは本人も頭のどこかでは分かっているのです。しかし下着が汚れている事実を認めることができない」

 飛田さんとはソリが合わない80歳近い男性がいた。いらついていることが多く、声をかけるたびに「何で年下から言われにゃいかんとか」と突っかかる。風呂が嫌いで入浴も拒否してきた。ある日、この男性が大便をもらした。本人は意固地になって素知らぬ顔だが、周囲には悪臭が漂う。

 飛田さんは頭を抱えた。日ごろから苦手な相手だ。デリケートな事柄なので、かける言葉を少しでも間違えれば、本人の心を深く傷つけてしまう。「どう切り出せばいいのだろうか」

 取りあえず、男性をトイレに誘導した。やはりパンツは汚れている。だが、そのことには一言も触れずに「そうだ、今から風呂に入りましょうか」と誘った。いつものように断られるかと予想したが、男性はこっくりとうなずいた。惨めな気持ちには触れずに「うまい逃げ道」を用意できたのだった。

 「いずれは認めなければならない現実なら、プライドが高すぎて周囲に壁を作ってしまう人は確かに不幸な性格だと思います。しかし、これは性格だから仕方がない」

 ◇参加者には歌を無理強いしない

 介護施設の利用者がぶつかりやすい「プライドの壁」の話を続ける。

 宮崎市高岡町の辰元グループのデイケアでは、毎日レクリエーションのメニューが変わる。ルーレットゴルフ、風船バレー、玉入れなどだが、一般人には知られていないゲームも多い。体力の衰えを遅らせるためのリハビリを兼ねているから単純で軽い運動になる。歌いながら両手を動かすなど、幼稚園の「お遊戯」に似ているものも多い。

 こうした「お遊戯」に照れずに参加できるかどうか??。割り切って参加できない人にとってはデイケアは、気晴らしどころか苦痛になる。

 職員の飛田浩邦さん(30)は「ポイントは歌にある」と語る。「僕自身、デイケアでは仕事だから歌いますが、個人的には人前で歌うのは大の苦手です。だからデイケアの参加者を一人ずつ指名し、歌ってもらうような場面では気持ちが凍り付く人がいることもよく分かります」。飛田さんは、参加者には必ず事前に「人前で歌うことが平気かどうか」を尋ねておくという。「苦手だ」という人の場合、決して無理強いはしない。

 歌が苦手な飛田さんが組み立てるレクリエーションのメニューは自然とゲーム中心になってしまうという。それでも中には歌が好きな人もいるから、参加者が歌う場面も出てくる。その間、歌が嫌いな人たちだけをそっと遠ざけ、別の遊びをしていてもらう。「認知症がなく、頭がはっきりしている人ほど、歌を嫌がる傾向があるようです」と飛田さんは言う。

 単純なゲームでも、競争を面白くするためにビリの人に「罰ゲーム」を課すことがある。「罰ゲーム」は歌を1曲歌うことであることが多い。尻込みする人に、飛田さんは歌の代わりの罰ゲームをしてもらう。たとえば「動物の種類を5つ挙げてください」「魚の名前を5つ言ってください」などの課題を与える。

 一方、歌が好きなデイケア職員の松原八重子さん(68)は、歌が嫌いな参加者の罰ゲームの際は、自分も一緒にデュエットしてしまう。その結果、これまで歌えなかったのに歌えるようになった人も多い。介護者、参加者それぞれだが「打ち解けられるかどうかのポイントは歌」という説は本当のようだ。

 職員たちの努力で、いくら楽しそうな演出がなされていても、結局は「人工的な楽園」である。多くの参加者の本音を聞けば「できれば自宅で過ごしていたかった」と答えると飛田さんは言う。

 集団で過ごせば、必ずルールや秩序が必要になる。入浴や食事の時間も決まっている。参加者は空腹であろうとなかろうと、時間割に従わなければならない。職員や参加メンバーの中には相性の悪い相手もいる。ゲームや歌でも、最初に「馬鹿らしい」と拒否してしまうと、後から参加するのが気まずくなる。自立が可能なら自宅で暮らした方が、はるかに自由で気楽なのだ。デイケアを楽しめるかどうか、参加者側にも資質が問われている。

 ◇親を預ける家族の事情

 県内では数多くの高齢者がデイケアを利用している。朝から夕方まで施設でレクリエーションやリハビリを実施する毎日を送っている。

 では、彼ら高齢者が、デイケアの利用を始めるきっかけとなったのは、誰の意思だろうか。本人の希望なのか、それとも家族の希望なのか。

 「それは圧倒的に家族の意向です」と宮崎市高岡町、辰元グループのデイケア担当、飛田浩邦さん(30)は説明する。

 「介護が必要な高齢者を持つ家族の多くは、目の前の重労働から何とかして解放されたいと切実に待ち望んでいます。このままだと家族の方がまいってしまうから、と訪問したケアマネジャーが心配して相談してくるケースさえあります。週に2、3日だけでも、施設で面倒を見ることができれば、家族は何とか一息つけるのですよ」

 デイケアの参加者は気持ちよく入浴し、子供のようなゲームや体操をして一日を過ごす。その至れり尽くせりのサービスぶりは、慰安旅行を毎日続けているかのようにも見える。

 だが裏には、高齢者を自宅において置けない家族の事情が存在する。親に認知症があれば、自宅に置いたまま家族はどこへも行けない。認知症がなくても、体の不自由な高齢者を一人で自宅に残せば、親は一日中誰とも口をきかずに終わってしまう。それに対する「すまなさ」もあり、多くの家族は「仲間がたくさんいて楽しいデイケア」に親を預ける。高齢者たちは必ずしも自分から進んでデイケアに参加しているわけではない。

 ただ、家族にもいろいろあるようだ。デイケアに送り出すことに引け目を感じてか「お母さんをよろしくお願いします」と毎朝、深々と頭を下げる家族。施設職員の手をなるべくわずらわせまいと、高齢者を身ぎれいにして、清潔な紙パンツをつけて送り出す家族。一方、デイケアにまかせた後は「一切関知せず」の家族もいるという。

 「紙パンツの清潔度で、本人が家族にどう思われているかが分かるんですよ」。デイケアの参加者は半数以上が紙パンツをはいている。失禁を防ぐための2、3時間おきのトイレへの誘導は、職員の重要な仕事だ。その紙パンツがデイケア来訪の3日ほど前から、大便などで汚れたままの高齢者もいるという。家族が無関心で、自宅で取り換えないためである。

 「認知症だから、苦痛を訴えることは少ないのでしょうが、あまりにひどい。ただし私たちは、家族に『ひどい』などとは決して言いません。私たちが注意したことが原因で、本人に八つ当たりされては困るし、家族とけんかをしたくはない。そんな時は、ケアマネジャーを通じて婉曲(えんきょく)に言ってもらうんです。『大便まみれのままだと感染症の恐れがありますよ』などと、注意を促します。心の中では、どうして、もっと親を大切にしてくれないのか、と悲しくなるんですがね」

 ◇利用者と施設にある相性

 「デイケア編」も最後になった。宮崎市高岡町にある辰元グループのデイケア担当職員、飛田浩邦さん(30)からのデイケア利用者へのアドバイスをまとめておこう。

 「デイケアに向いている性格と、向いていない性格は、間違いなくあると思います。デイケアを楽しめる人と、そうでない人がいるんです」

 この話は、先述したレクリエーションの際に「幼児的な行為に対して無心になり切れるかどうか」と関係してくる。

 レクリエーションが子供じみていようがいまいが「参加することに意義がある」のは事実だろう。体力維持のため、恥ずかしさやプライドを捨て、無心に楽しめる性格の人の方が得なのだ。そういう人の方が、結局は生命力が強いのである。

 飛田さんたち職員が「ゲームをしましょうか」と聞いても「何でせにゃならんとか」「せん!」と、激しくはねつける人もいる。一方では、嚥下(えんげ)体操で他の人が「パパパパ、カカカカ」などと声を上げている時は、ふてくされたような態度で横を向いていても、自分が指名されると大声で嚥下体操を披露する人もいる。人それぞれだ。

 それは職員についても同じことが言える。レクリエーションの時、職員には率先して参加者の前で歌ったり踊ったりする職務上の必要性がある。飛田さんたちは、専門学校でレクリエーションを運営する訓練を受けてきたため、それを「恥ずかしい」と尻込みする気持ちは克服している。

 しかし飛田さんは、若さゆえに昔の歌をあまり知らないため高齢者との共通の話題を見つけるのに苦労する。この施設では、元気のいい水前寺清子の歌がレクリエーションの時間によく流れている。この点、どうしても年配の職員の方が有利になる。歌一つですぐに打ち解ける。年配の職員の言うことなら素直に聞くのに、飛田さんら若い職員が同じことを頼んでも「若造の言うことが聞けるか」という悔しい対応を受ける場面がしばしばある。訓練を受けた職員でさえ悩むのだから、一般の高齢者に人前で子供じみたゲームをさせれば、抵抗を感じる人がいても当然だろう。

 「デイケアの参加者には、協調性も求められます。あまりに『我』が強い人は結局続かない。『いっとき休みます』と言って、そのまま来なくなった人もいます」と飛田さんは言う。参加者の多くは、自宅にいれば、一日中誰とも話をせず、寝たり起きたりの時間で終わってしまうだろう。

 ただ、それが可能な人はそれでいいのだと、私は思う。デイケア自体はあちこちで開業している。相性のいいデイケアが見つかるまで探せばいい。いずれにせよ、この人生で自分の自由になる時間は減り続けている。無理をせず、マイペースで心地よい一日を過ごせる場所を探すことが大切だ。【出典:毎日新聞】

訪問介護の一つであるデイケア。現実を見てほしいと思う

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