シリーズ介護:山口の通所介護施設「夢のみずうみ村」 土産は「技術」と「自信」
介護の必要な高齢者にレクリエーションなどを提供するデイサービス。塗り絵や折り紙では「子ども扱いされている」と嫌がる人も多いが、山口県で山口市と防府市にある大規模通所介護施設「夢のみずうみ村」(藤原茂代表)はユニークなサービスで大人気だ。地域通貨を使い料理やギャンブルまで楽しめると聞いて訪ねると、お年寄りを元気にするアイデアがあふれていた。
◇地域通貨で料理、ギャンブル…/サービスは自ら選択大海湾に面する防府デイサービスセンター。玄関で待っていた廣海圭祐(ひろみけいすけ)さん(63)が名刺をくれた。肩書に「水先案内人」とある。「ここは好きなことができて束縛がないので、気に入っているんです」。職員かと思ったら、利用者だという。
廣海さんは5年前に脳内出血で倒れ、右半身まひの後遺症がある。退院直後は「要介護3」で右腕も右足もほとんど上がらなかったが、施設にある海水100%のプールでトレーニングし、「要支援2」まで回復した。週2回通い、炭焼きや野菜作りの合間に、毎日のように来る見学者の案内係も受け持つ。
午前9時過ぎ。送迎バスで到着した利用者がその日やりたいメニューのカードをホワイトボードに張り、半日の計画を立てる。木工、カメラ、料理、カジノ、ごろ寝……。メニューは100種類近く。人気メニューはすぐ定員オーバーになる。
サービスを利用するには、施設内だけで流通する地域通貨「ユーメ」が必要。入所時に6100ユーメをもらい、体のほぐしは30ユーメ、カラオケは100ユーメと利用ごとに払っていく。心身の活動性を高める効果を狙って導入された。
払うだけではすぐ一文無しになってしまうが、自分の血圧を測ったり、食事で使った茶わんを元の場所に戻したり、日常的な作業をすれば、その都度得られる。廣海さんのような水先案内人は、見学者を1回案内するごとに1000ユーメもらえるという。
メニューが決まったら、廊下を歩きそれぞれの場所へ。驚いたのは、普通の施設のような手すりがほとんどないことだ。代わりにあちこちにタンスやソファが置かれ、利用者はそれらにつかまりながら歩いていく。段差も目立つ。普通の家と同じ環境でバランスを取り気を付けて歩くことが早期回復につながるとの考えだそうだ。
壁の案内板も面白い。「夢小路6丁目」「ちょっと坂」。街角にいる気分になる。壁に張られているクイズを解きながら、のんびり歩く人もいる。
昼食はバイキング。お盆の上にごはん、みそ汁、おかずを自分で取り、席に運ぶ。中華風蒸し鶏が並ぶプレートに「1人4切れ」と書いてあった。1切れずつつまんで皿に移す。なるほど、これもリハビリなのだ。
◇
防府デイサービスセンターは05年10月にオープンし、1日平均約80人が通う。一般的に男性はみんなと同じことをさせられるデイに行きたがらない傾向があるが、ここでは男性のほうがやや多い。64歳以下も2割近くで、脳卒中の後遺症などがある人が多い。01年に山口デイサービスセンターを開設。独自の取り組みが口コミで広がり、現在は利用者登録数が2カ所合わせて450人を超える。
代表の藤原茂さん(60)はリハビリが専門の作業療法士。通所介護施設はリスク管理を重視するあまり、入浴や体操以外は利用者を動かさないことが多いが、みずうみ村を「自己選択、自己決定方式」にしたのは、長年の経験で「本人の意思を引き出すことが機能回復の最大のカギ」と気づいたからという。
「ここは毎日、三つのお土産があるんです」と藤原さんが言った。料理や木工などで学んだ「技術」。できあがった「作品」。そして生まれた「自信」という。「目指しているのは、機能と生活と人生の回復です」
◇
午後、廣海さんの案内で調理室に行くと、利用者の臼田喜久江さん(68)が料理教室を開いていた。臼田さんは脳内出血で左半身まひになったが、茶わんにりんごを入れて皮をむくなど、片手でできる調理法やレシピを次々と考案し、今や全国を飛び回る。サービスを受ける側から、提供する側へ??。これもみずうみ村の特徴だ。
午後3時。食堂に利用者が次々と集まってきた。ゲームやカジノの時間だ。一番人気は5000ユーメを賭けた花札の「おいちょかぶ」。送迎バスが出る4時が近づくのに、参加者はどんどん増える。気が付くと案内人の廣海さんも勝負の輪に。「負けなしだよ、きょうは。気分がいい」
ぼろ負けしたのはみずうみ村の職員。苦笑いする職員に励ましの声をかけ、お年寄りたちが帰りのバスへ乗り込んでいった。
◇9割が要介護度維持・改善家で暮らす要介護高齢者が入浴・食事や機能訓練を受けるデイサービスは、在宅介護をすすめる国の政策を背景に、昨年4月現在で介護保険サービスを使う人の3人に1人にあたる約113万人が利用し、制度がスタートした00年度の2倍以上に増えた。
池田省三・龍谷大教授は「通常のデイサービスは高齢者自身の活力を高めるというよりも、高齢者を預ける時間を作ることで家族介護者に休息を与える意味合いが強く、託老所のような施設も少なくない」と話す。池田教授が07年にみずうみ村の2年間の利用者229人を調査したところ、約9割の人が利用前と比べ要介護度が維持・改善していた。【出典:毎日新聞】
どんな施設がいいのか。難しい問題だと思う。ただ、言えることは、職員の考えを利用者に押しつけてはいけないことだ
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