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光になる:ブライユ生誕200年

◇5万分の10に耳を傾け

 「シャンプーとリンスの容器は区別がつかない」「せめて、入浴時のシャンプーぐらい1人で間違えずに使えるようにならないか」

 化粧品メーカー「花王」(東京都中央区)の消費者相談部門には視覚障害者らの不満が毎年寄せられていた。しかし、その数は10件程度。年間5万件の相談総数に比べれば、わずかなものだった。

 90年夏、そんな声が商品開発のテーマに据えられることになる。「中身も外見も大事じゃないか」。消費者により密着した商品開発を目指し、営業やデザイン、研究開発部門のメンバーを横断的に集めた「文理科学研究所」が社内に発足したのがきっかけだった。

 パッケージデザイン担当だった青木誠さん(65)らの試行錯誤が始まった。ある日、千葉県立盲学校を訪れた。生徒らは形が似たコップを使い分けるのに、輪ゴムを巻いたり、プラスチック製のコップの一部を削ったりしていた。

 「手触りですぐ分かることが大切」。青木さんは凸印の線をくしの歯のようにすき間なく刻んだ容器を作り、2週間、使ってもらった。OKは出なかった。「刻みの間隔が細かすぎる」。糖尿病などが原因で視覚障害になると指先の感覚が鈍り、刻みを感じ取れないという指摘だった。

 生徒らにも納得してもらえる製品がようやく店頭に並んだのは91年10月。だが、大きな仕事が残されていた。1社だけの製品では、視覚障害者の利便性は高まらない。同業各社に導入を呼び掛けた。おおむね賛同を示してくれ、花王は新容器の形状に関する「実用新案」を取り下げた。

 それから20年近く。凸印の列を側面に刻んだ容器は、日本工業規格(JIS)にもなり、業界の共通語に成長した。触れて分かる商品は、ビールやチューハイの缶、ラップなどにも広がった。

 青木さんは振り返る。「デザインとは、使うたびに『ああ、ありがたい』と思ってもらえる新しい価値を築ける手段だと思った」

     ◇

 現在の点字を発明したルイ・ブライユ(仏)生誕から今年で200年。「ブライユに続け」と、視覚障害者の「光」となる製品づくりに励む企業や業界の取り組みを紹介する。

 ◇「コスト割れ」を乗り越え

 「これは紺色の靴下です」。手のひらほどの大きさの音声レコーダーを、靴下につけられたICタグ(集積回路を組み込んだ札)に近づけボタンを押すと、あらかじめ録音しておいた情報が流れ、視覚障害者が身近な物を確かめられる。パナソニックコミュニケーションズ(旧・松下産業情報機器)の「ものしりトーク」。

 一時は採算性などから開発中止の可能性もあった。

   ×  ×

 「あなたの会社の技術なら、できるのでは」。ある福祉機器の会社からこんなアイデアが寄せられたのは00年ごろ。パナソニックコミュニケーションズはクレジットカード決済端末などを製造していた。小さな端末が情報を認識する技術を、視覚障害者のために役立てられないかというのだ。

 開発グループの内田弘さん(52)らは視覚障害者の団体や施設に足を運んだ。視覚障害者は薬、缶詰、カセットテープなど、触っただけでは中身が分からない物を識別したいと望んでいた。色合いの組み合わせを知るため、衣類を判別したいという声もあった。

 技術担当の安井啓二さん(51)が試作機を作った。ところが、部内から「視覚障害者対象で市場も限られる」と反対論が上がった。開発期間が1年経過し、開発費も約5000万円になった。

 味方になったのは、当時の大谷昌三社長(退職)。「視覚障害者の役に立てるものづくりは、採算だけで判断できない」。開発は再始動し、構想から3年後に製品化にこぎつけた。

 CDにタグを付け、自分で選曲しながら音楽鑑賞を楽しむ70代女性から会社に電話が寄せられた。「10年ほど前に失明し、一時は音楽の趣味を失う絶望感があったが、今は生きがい」

 企業を対象に産業機器を作ってきた同社が、初めて個人に向けて開発した商品。安井さんらは「(目が不自由な人たちが)『暮らしを良くしたい』という気持ちを感じた」と振り返った。

 ◇危険知らせぬ「静けさ」

 「まるで透明の車」。横浜市に住む全盲の久保智(さとし)さん(39)はその体験を鮮明に記憶している。

 丘陵地の住宅街にある狭い坂道。鍼灸(しんきゅう)術を学ぶために学校へ歩く途中、前方から小さな音を感じた。「ライトをつけた自転車が走るような音」。次の瞬間、至近距離からクラクションが鳴った。「ハイブリッド車だ」。慌てて路肩に避ける久保さんの脇を、自動車が過ぎ去る気配が残った。

   ×  ×

 「音は光」と久保さんは言う。視覚障害者は、危険が迫っていることを音などで判断する。ガソリンエンジンとモーターを併用し燃費がよいハイブリッド車。人気は高まっているが、時速15キロほどの低速時にモーターの力で走る方式だと、走行音はほとんど聞こえない。環境に優しい一方、視覚障害者にとっては新たな不安材料だ。

 メーカー側も意識は共有する。トヨタ自動車のグループ会社・トヨタ自動車九州(福岡県宮若市)は、視覚障害者の要望に応え、ハイブリッド車の走行音について知ってもらう体験会を06年から4回開いてきた。

 ホンダが2月に発売したハイブリッド車は、低価格で低速時にもエンジンを使う方式。これだと走行音が出るのも一つの特徴だ。

 一方、「日本自動車工業会」は06年夏から、ハイブリッド車の走行音対策の検討を始めた。「車両接近を音で伝える装置がつけられないか」。しかし、発音装置は“新たな騒音源”になりかねない。議論は続いている。

 今年2月には、自動車騒音に関する国連の会議の分科会が、静音性の問題を初めて議題に取り上げた。

 ハイブリッド車の静音性と歩行者の安全性を研究する慶応大経済学部の中野泰志教授(障害者心理学)は「子どもや高齢者も事故に巻き込まれる可能性がある」と指摘。「ドライバーから『クラクションほどではない音で伝えられないか』という声も出ている。環境とバリアフリーの共存へ向け、業界全体で解決策を模索してほしい」と話す。【出典:毎日新聞】

点字が生まれてから200年。技術革新とともにバリアフリーにもなったが、ハイブリッドのように新たなバリアが生まれてしまった。本当の意味でバリアフリーに、いつなるのだろうか

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