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ケア開国:最前線・台湾から

上 言葉の壁、乗り越え

 経済連携協定(EPA)に基づき208人のインドネシア人看護師・介護福祉士候補が来日し、年明けから全国の病院や介護施設で働き始める。16万人余の外国人介護労働者が働く先進地・台湾の現状と課題を報告する。

 ◇施設介護の半数外国人??親しみやすさ、まじめさで

 日本が受け入れるインドネシア人の介護福祉士候補が働くのは施設に限定されている。外国人による施設介護が行われている台北市内の小規模介護施設「私立陽光老人養護所」を訪ねた。

 施設は市の中心部から車で20分の住宅街の一角。重度ではないが入居者40人のうち8割が認知症や脳卒中の後遺症だ。日本の特別養護老人ホームに似ている。介護を担うのは台湾住民9人と外国人9人の計18人で、外国人は外国人比率上限の50%ぎりぎりだ。ほかに看護師とソーシャルワーカーがいる。勤務は日勤と夜勤の2交代制で午前7時と午後7時が交代時刻。外国人は、インドネシア人が6人、ベトナム人が2人、フィリピン人が1人。

 インドネシア人のラトナ・サフィトリさん(22)はこの施設で働いて2年半。ナナと呼ばれている。ジャワ島のスラバヤ出身。看護系の高校を卒業後、2カ月半、母国で中国語、ケアの仕方、掃除・家事を学び仲介業者のあっせんで台湾に来た。施設隣接の寮から通う。

 担当する2階を案内してもらうと2?4人ごとに仕切られ14のベッドが置かれていた。ナナさんは鼻から管を差しこみ水分を取っているお年寄りの管の装着具合をみたり、布団をかけ直している。日勤は台湾住民の同僚とペアだ。中国語を勉強したナナさんだが、発音の異なる台湾語しか話せない入居者もいて当初は戸惑った。今はインドネシア語で話しかけてくれるお年寄りもいるという。

 主任の鄭彩玉さんによると、通いの台湾住民スタッフは夜勤を避ける傾向があり、看護師を除いて夜間は外国人だけのこともあるという。市内の別の施設では、介護記録をそれぞれの母国語で同じ項目のチェックシートを作り、点検する方式をとっているが、ここでは介護記録作成は台湾住民が担い、ナナさんはタッチしない。担当者が記録作成に直接かかわる日本とは異なる。

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 昨年、台湾の小規模施設の経営者ら51人にアンケートした京都大大学院の安里和晃・准教授によると、離職率が低く、欠勤の少ない外国人労働者の評価は台湾住民より高い。課題は意思疎通で、多くの外国人労働者は初期の段階でお年寄りから介護を拒否される経験を持つ。お年寄りの家族と合わないこともあり、夜勤だけに配置する施設もあるという。

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 お年寄りは外国人労働者をどう思っているのか。陳顧満さん(86)はいたずらっぽく言う。「言葉が通じないときは二つの方法があるの。一つは『まっ、いいか』と思うこと。もう一つは台湾住民を見つけてお願いするわ」。言葉が通じないことを、そんなに深刻に考えてはいないようだ。ナナさんの同僚でソーシャルワーカーの楊静〓さん(30)は、言葉が通じないことの不利益を認めたうえで、「壁」を乗り越えることは可能だという。「お年寄りは『薬を飲みましたか』とかあいさつをしてくれて、自分に関心を持ってくれる介護職員に、たいてい親しみを持ちます」。日常の積み重ねが大事なのは万国共通のようだ。

 ナナさんは看護を学んでいたこともあってお年寄りに喜んでもらうのが何よりうれしい。休日は月1日。それでも台湾住民より賃金が安いが「つらくはない」と話す。来年6月にインドネシアに戻り看護大学で学ぶ予定だ。

 ◇資格不要/低賃金/最大9年滞在

 台湾と日本の最大の違いは資格条件だ。日本は母国での資格取得に加え、日本でも国家試験に1回で合格しないと滞在し続けることができない。他国に例のない高いハードルだ。

 政府関係機関を唯一のあっせん機関としているのも日本の特徴。高い仲介料を負わせないためだが、仲介業者には雇用主に通訳を派遣したり、トラブル処理を担う側面もあり、個別ケースへの対応力が今後の課題だ。

 台湾での外国人介護労働者の賃金は1台湾ドルを2・76円(12月12日現在)で換算すると、在宅の実際の賃金は残業代込みで約2万台湾ドルとなり約5万5000円。台湾介護労働者の3万台湾ドルは大卒初任給並みで約8万3000円。ちなみに日本の介護職員の平均給与は19万2587円(介護労働安定センターの07年調査)だ。

 ■進む少子高齢化

 台湾は人口約2300万人。台北市に263万人が住む。93年に65歳以上の高齢者が全人口の7%を超え高齢化社会に突入。05年には10%を超え、25年には20%を超える見込み。合計特殊出生率も1.12(06年)で日本より低く、少子高齢化が進む。家族介護の慣習は残っているが65歳以上で子どもとの同居割合は6割で、低下傾向にある。

 外国人労働者を管理する行政院労工委員会によると、08年10月現在で外国人労働者は約37万3000人。介護・家事労働者が43%の約16万4000人を占める。内訳は在宅約15万5000人、施設約9000人。在宅は約7割を、施設は4割弱を外国人が担う。

中 住み込み、介護も家事も

 ◇1日15時間、休日なしでも「仕事楽しい」

 台北市の仲介業者の紹介で、台湾の高速交通システムMRTに乗り、観光地「淡水」近くの新興住宅街にある張明賢さん(72)のマンションに向かった。しゃれたリビングセットのある部屋で張さんと話していると、仲介業者が派遣したインドネシア語通訳の陳剣実さん(33)がやってきた。

 張さん一家は母親、爾阿珠さん(92)と妻(66)の3人暮らし。張さんは9月から働き始めたインドネシア人の介護労働者スリ・インダルティさん(36)の中国語のレベルに不満を持っており、仕事を理解してもらうため、通訳をしばしば呼んでいた。この日で3回目だ。

 「何カ月働いているの」。陳さんが来る前、スリさんに中国語で聞くと、しばらく沈黙したあと「2カ月」と英語で答えが返ってきた。かつて2年間働いたシンガポールで覚えた英語は出てきても、インドネシアで4カ月間、研修を受けたという中国語は出てこない。しかし、陳さんがインドネシア語で話しかけた途端、スリさんは表情も豊かによどみなく話し続けた。「中国語は難しいけど、仕事は楽しい。中華料理を作って、奥さんにほめられるとうれしい」

 張さんが台湾住民でなく外国人を雇うのは、賃金が半分程度ですむことが大きいが、台湾住民の場合は「介護」しかしてくれないという問題もある。外国人の介護労働者は、住み込みで介護も掃除も料理もこなし、休みも取らない。

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 台湾では低・中所得層でも住み込みの外国人労働者を雇うことができる。家族介護の慣習が残ってはいるが、介護する家族の高齢化などで需要は増している。台湾当局は台湾住民の訪問介護サービスを充実させて外国人の介護労働者への依存度を減らそうとしているが、思うようにはいっていない。

 スリさんが寝起きするのはリビングわきにある10畳ぐらいの洋間。5年前からほぼ寝たきりの張さんの母親のベッドの横に自分のベッドを置いている。起床は6時。張さんたちの朝食を用意したあと、洗面や食事の介助を済まし、掃除や洗濯、昼ごはんの用意と仕事は続く。

 スリさんが一番気になるのは排せつがうまくいかないときだ。しばしばあるようで「かわいそう。心配です」と顔を曇らせる。午後は入浴介助。冬は風邪をひかないよう早い時間に入浴をすませる。スリさんに休日はない。たまに近くの市場に野菜を買いに行くのが息抜きだ。夜9時過ぎにすべての用事をすませたあとは部屋で台湾の雑誌をながめたりして過ごす。夜中に起こされることはほとんどない。

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 台湾では、雇用主やケアする高齢者の状態によって、在宅外国人介護労働者の負担感はかなり異なる。政府の規定では施設に比べ在宅の外国人労働者の賃金のほうが低く、しかも在宅は労働基準法の適用外だが、必ずしも施設介護に外国人労働者の希望が殺到しているわけではないという。施設は夜間30人の高齢者を1人でみたり、仕事が次々とあり、台湾住民にとっても労働条件はよくないとされる。

 台湾住民の介護労働者の報酬は大卒初任給並みだが、サラリーマン全体の平均給与からすると高くない。日本は外国人による在宅介護は想定していない。

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 スリさんとの間にほとんど会話はないが、張さんの母親は安心して身体を委ねているようだ。スリさんには子どもが2人おり、世話をするのにたけた既婚者のインドネシア人を仲介業者に頼んだ張さんも、その点に不満はない。

 帰り際、日本語ができるという母親に声をかけてみた。耳が遠いせいか、大きな声で話しかけてもほとんど聞き取れないようだが、何か言ったあと顔の前で手を合わせた。スリさんは「ありがとうと言っているの」と解説したが、母親はベッドに横たわったままお経を唱え始めた。

 ◇低所得層、外国人労働者に依存

 台湾には日本のような介護保険はないが、90年代後半から、離農者や中高年女性を対象に訪問介護サービスを行う人材養成を始めた。03?07年の5年間に約4万人を養成したが、実際に介護職に就いたのは1割の4000人。04年には介護職の地位向上のため国家資格を創設。07年には介護の10年計画も策定した。

 受け入れを始めたのは92年。当初、受け入れ賛成は2割未満だった。しかし高齢化の進展に伴い外国人労働者は増え続け、現在は16万4000人。うちインドネシア人は最も多く10万人を超え、6割を占める。台湾政府は失業率増加などを受け台湾住民の人材養成を進め、外国人の数を減らす方針をたびたび出してきた。今年10月にも、1割前後(3万5000?5万人)を減らす方針を出した。しかし、高齢者団体や身障者団体は「中・低収入者は安い賃金で働いてくれる外国人労働者にすでに長く依存している」などと猛反発している。

下 トラブルも相次ぎ

 ◇解雇、賃金不払い…政府チェック不十分

 台北駅に外国人労働者向けの相談センターがある。週末になると、インドネシア語や英語のできるスタッフが相談に応じる。謝妍羚さん(26)の車椅子を押してきたインドネシア人の在宅介護労働者、ファタマさん(37)が立ち寄った。謝さんが教会に行く日曜を利用し、新しい情報がないかを確認に来るという。

 センターができたのは2年前。行政の取り組みを聞こうと、台北市の担当部署を訪ねると、インドネシア人の在宅介護労働者、シティ・マミナさん(39)が立っていた。「仲介業者が今年4月以降の賃金を振り込んでいない」という。「来年4月にビザが切れる。仲介業者はまとめて払うというが、パスポートも取り上げられており不安」。シティさんは訴えた。

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 台北市の外国人労働者は約3万7000人。9割が介護・家事に就く。今年4月からの5カ月間に市が受けた外国人労働者に関する相談は9735件。契約期間前の解雇や賃金不払いなども少なくない。一昨年から外国人を雇う際、雇用主は各県市に報告し、行政職員のチェックを受けることになった。最近は台湾に入る際、センターの連絡先を伝えるなど外国人労働者の権利を守るための水際作戦を行っている。ただ、高い仲介料が重荷になるなどして約6%(07年調査)が行方不明になっているという。

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 外国人労働者の権利擁護の取り組みが顕著になったのは03年に車椅子の国民的小説家、劉〓(当時61歳)がインドネシア人の在宅介護労働者に殺された事件が契機だ。それまで人権問題に取り組んできた10以上の団体が、連合組織を作り在宅介護労働者への労働基準法適用や休暇の確保を求め活動を始めた。「雇用主だって休暇を与えたい。でも休まれたら自分の生活がたちゆかなくなる。家族介護をする台湾住民に与えられる息抜き休暇(補助金付き)を外国人にも与え、仕事を休めるようにすべきだというのが我々の要望」。連合組織のNGOの一つ台湾国際労工協会(TIWA)の呉静如事務局長は語る。

 ホープワーカーズ(キリスト教系NGO)は、04年に46人の外国人労働者が集団虐待され教会に逃げ込んだのを機に台湾で初めて「シェルター」を作った。逃げてきた外国人労働者を受け入れる施設だ。主に寄付金で運営されている。平均して3?4カ月間、シェルターで生活した後、母国に戻ったり別な場所で働き始めるという。今は約20人がシェルターで生活する。担当する葉茉莉さん(57)は政府の権利擁護の取り組みについて「事後の対応になりがち」と指摘する。

 TIWAの呉さんに日本が経済連携協定(EPA)の枠組みで外国人介護労働者を受け入れることを伝えた。「当初は少人数だけ受け入れ『チェックをやるから大丈夫だ』と台湾政府は言っていたが、把握が難しいほど外国人労働者が増えてしまった。いったん導入すると止まらない」

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 ■7割が働きぶりに満足

 台湾行政院は07年、外国人労働者の全雇用主を対象に調査を行った。外国人労働者に何らかの問題があるとの回答は50.5%で(1)言語などコミュニケーションがうまくとれない73.7%(2)電話好きで困る31.7%(3)介護技術が不十分24.3%??が上位だった(複数回答)。全体評価としては「とても満足」「まあ満足」が計72.5%で、4人に3人は働きぶりに満足していることが明らかになった。【出典:毎日新聞】

台湾から何を学ぶべきなのか。もう一度、考え直さなければならない

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