7 月 29 2008
読む政治・選択の手引:介護保険、現状と課題
◇パーキンソン病、72歳女性
トイレ脇の椅子で、1日の大半を過ごす。インターホンが鳴れば、つえを突いて玄関に向かうが、力がうまく入らず転んでばかり。
玄関までわずか5メートルに10分かかってしまい、訪問者は去っていく。
熊本市の主婦、上野亮子さん(72)は8年前パーキンソン病を発症した。司書を定年退職し、「第二の人生」のため合唱を楽しみ始めたころ。初老期の発症が多い難病だ。発症後、介護保険制度で「要支援」認定を受けた。「生活援助」として、ほぼ毎日2時間ほどホームヘルパーが来て、家事を助けてくれた。
ところが05年の制度改正で、要支援者へのサービスは削られ、自立を求められるようになる。
「生活援助」の時間を延長しても介護業者に対する報酬加算が廃止されたため、ヘルパーの訪問は1回1時間半、週3回に限られた。
一方で病状は悪化。「タオル1枚も重くて持てんし、字も書けん」状況だ。娘2人は嫁ぎ、今も働く夫(73)との「老老世帯」。ヘルパーも時間的に買い物と調理が精いっぱいで、掃除洗濯は1回1000円で知人に頼む。
上野さんは今春、県に「要介護」認定を求めたが、書類審査で却下された。
関係者は「時間がかかっても自分で立ち上がれる点が重視されたのでは」と見る。上野さんは言う。「どうして認定が軽いのか。恨めしい」
◇「生きててなーんもいいことない」「この業界はつぶれる」「もし今、けがをしたら…」
◇強いられる自立
05年の介護保険制度改正は、現場に深刻な影響をもたらした。「要支援」認定のため、熊本市の上野亮子さん(72)が利用を半減せざるを得なくなったヘルパーの「生活援助」。厚生労働省によると、05年12月に全国で月約650万回だった生活援助利用数は、今年3月に400万回を割った。新たに「要介護1」から「要支援2」に区分を軽くされた人も多く、要支援者は05年4月の67万人から07年11月に116万人に増えた一方で、「要介護1」は133万人から80万人に激減した。
ホームヘルパー全国連絡会の森永伊紀(よしのり)事務局長は「給付費削減を狙った制度改正後、本来なら要介護の人も要支援になるケースが増えた。必要な支援を受けられず、生活援助は特に『利用者の自立を妨げる』と悪者扱いされ、利用抑制が進んだ」と指摘する。
熊本市高齢介護福祉課の担当者は、上野さんのケースについて「個別事例については答えられないが、時間はかかっても自分で立てれば、予防・改善の余地があるとして要支援と判定されがちだ。制度改正で、国が予防重視になり、全国一律の基準で判断せざるを得ない」と悩ましげだ。
取材中、上野さんは何度も口にした。「何のために介護保険料払ってるのか分かりません。生きててもなーんもいいことないです」
◇ヘルパー残酷物語
「利用者さんがいません」。7月初旬、神奈川県相模原市内の訪問介護事業所に、新人の女性ホームヘルパーから電話が入った。
利用者の80代の女性は、独り暮らしで認知症。電話を受けた介護職の男性(27)はバイクで駆けつけ、付近を捜し回った。利用者の女性が美容院に出かけていたことが分かったのは、約2時間半後だった。
時間の感覚が弱まる認知症患者の場合、ヘルパーの訪問時間を失念して出歩く例は珍しくない。男性はヘルパーの傍ら、非常勤のヘルパー15人を束ねる責任者として、アクシデントへの対応や書類の作成にも追われる。2~3時間の残業は当たり前だ。正社員としての手取りは約18万円。勤続4年目で、昇給はない。
以前勤めた住宅業界では、月39万円を手にしたこともある。だが大学時代のボランティア経験から、「一度は勤めたい」と収入減を覚悟して入った福祉業界。昨年結婚した妻(24)も派遣社員として働き、家計を支えた。
でも、もう限界と思えてきた。「産むこともままならないね」。妻のつぶやき。子どもが欲しい。妻が出産で仕事を辞めれば、家計が立ちゆかなくなる。
厚生労働省によると、昨年6月時点で男性ホームヘルパーの平均月給は23万9300円。全産業平均37万2400円の64%にとどまる。福祉業界で結婚を機にした「寿退社」と言えば、男性の退職を指すようになってきた。
年内に介護の仕事を辞めると決め、職を探し始めた男性。「結婚しても生活できる水準に給料を上げないと、この業界はつぶれる」と言う。
◇
低賃金に加え、施設職員の場合は労働環境も問題になっている。
東京都内の老人保健施設に10年勤めた女性(31)は昨年秋、6キロ体重が落ちた。食欲がなく、ゼリーを一口食べるのもやっと。うつ病と診断され2カ月休職したが体調は戻らず、今年4月末で退職した。「泊まり勤務の時に、仮眠できなかったからかな」と、当時を振り返る。
泊まり勤務は月5回、午後4時半から翌朝9時20分まで約17時間に及ぶ。午後8時半以降は約40人を2人で世話する。着替え、トイレ介助……。5、6人のナースコールが一度に鳴り、走り回る。
2時間半の仮眠時間は貴重だが、「仮眠室」は風呂場の脱衣所だ。簡易ベッドはあるが、薄い壁越しに隣室の入居者が鳴らすナースコールが響き、とても眠れなかった。
東京都大田区のグループホームで働く女性(62)も同様だ。仮眠室はなく、居間のソファで横になった。定員9人で、泊まり勤務の職員は1人だけ。入居者には認知症があり、「何か起きては」と物音に耳を澄ませなくてはならず、眠ってはいられなかった。
本来、仮眠場所の設置は事業主の義務だ。東京介護福祉労働組合の清沢聖子書記長は「健康で安心して働ける職場になっていない。行政は福祉と労働が縦割りで連携できていない」と批判する。
◇誘っても来ない
盛岡市北部の住宅街にある「メディフィットクラブうすい」。15日昼、病院に併設されたこのトレーニングルームに、Tシャツやジャージー姿の男女4人のお年寄りが姿を現した。軽快な音楽が流れる中、トレーナーの指導を受け、複数のマシンを使って足の筋力トレーニングを始める。黙々と汗を流し、トレーニングは約1時間にわたった。
地元の中学で校長を務めた大山恒男さん(73)は6年前、脳梗塞(こうそく)で倒れた。3カ月間の入院。「自力で治す」との強い思いで、要介護・要支援認定は受けず、リハビリを続けた。当初は引きずるしかなかった左足も動くようになり、自宅から1キロ弱の道のりを30分かけて歩いてトレーニングに通えるまでに回復した。「このまま寝たきりになるかと思ったが、まだ自分は大丈夫」と感じている。
介護保険制度の05年改正の目玉は「介護予防」の導入だ。その一つが要介護や要支援になる恐れのある65歳以上を対象に、筋力トレーニングや栄養指導をする地域支援事業。「予備軍」の人に将来、介護保険不要の健康体になってもらい、給付費を抑える狙いがある。盛岡の筋力トレーニングは週1回、3カ月のプログラムで、利用費は無料。足を鍛えるのは、寝たきりのきっかけとなりがちな転倒を予防するためだ。参加者の一人、辻チヨさん(86)は、60代までジョギングや縄跳びをしていたが、最近は歩く機会が減っていた。家族の勧めでの参加。「もし今、けがをしたら大変だという気持ちはある。いつか速足を試してみたい」とトレーニングに励む。
ただ、地域支援事業への参加者は増えていない。厚生労働省は65歳以上2720万人のうち、5%程度の参加を見込んでいたが、昨年11月末時点で0・3%、8万1243人にとどまっている。
「誘ってもなかなか来てもらえない」「プログラムを終了すると元に戻ってしまう」。16日に岩手県内の保健師や作業療法士らを集めて開かれた会議で、出席者は介護予防の難しさを口々に訴えた。
「メディフィットクラブうすい」のトレーニング責任者、大西智史さん(41)は「ここに来る人はもともとやる気があり、改善が見込める人。こういう場に来ない多くの人に、いかに腰をあげてもらうかが何よりの課題」と指摘する。
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◇施設依存から在宅型へ--立教大教授・高橋紘士氏05年の介護保険制度改正は、未来に布石を打ったものだ。地域密着型の在宅サービスを中心とする、21世紀型モデルを示した。
高齢者の絶対数急増によって介護ニーズは増大する一方で、社会保障費抑制という課題を突きつけられている。介護保険を中・重度者の在宅ケアを可能とする制度に変える必要があり、介護の必要度が低い人への生活支援の削減など、給付の重点化はやらざるを得ない。家事援助が本当に必要な人を選別し、保険ではなく福祉で対応すべきだ。
介護型療養病床(12万床)の全廃は、質の高い在宅介護の推進を意図している。地方で大規模介護施設を経営できたのは、大都市の会社員や公務員が払う保険料や税の再分配で財政が成り立っていたから。今後団塊世代が高齢化し、大都市の給付費は爆発的に増える。大都市に配分余力はなくなり、地方の施設依存型介護保険は破綻(はたん)必至となる。
患者の状態が悪化すれば利益が上がる療養病床は、施設側に患者の要介護度を改善させる意識が働かない。05年改正で導入された介護予防の理念にも反する。今後急増する認知症高齢者のケアの場としても不適切だ。
ただ、療養病床の廃止は地域ケア型介護の充実が前提だった。要介護でも住み続けられる住居の確保、日中の通いや短期宿泊、24時間ケアを提供する小規模多機能型居宅介護など地域密着サービス、医療機関や介護事業者間の連携促進、近隣住民らによる高齢者の「見守り」などで、家族抜きの在宅介護を可能にする理念だ。
ところが療養病床削減が政治問題化し、急ごしらえの介護療養型老人保健施設へ転換させることが主なテーマになっているのは残念だ。老健施設への転換は経過措置でしかなく、21世紀型モデルへの重点投資が今後の課題となる。
介護労働者の賃金が低く、人材確保が困難な問題の解決に保険料の負担増を求めるのは仕方ない。それでも会社員で1割増程度ではないか。生活支援の制限などで、短期的な介護保険財政にはある程度ゆとりがある。05年改正がなければ、大幅な負担増を迫られて大騒ぎになるところだった。
ただ、職員を使い捨てにする非近代的経営の事業所も少なくなく、賃金を上げても効果は限定的。介護職員をキャリアアップする仕組みの整備が必要だ。
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◇05年改正法、自公民賛成で成立
◇[自]制度の定着を目指す/[公]保険料を所得比例に/[民]職員報酬の適正化を/[共][社]国庫負担増が必要現行制度のベースとなっている改正介護保険法は、05年6月の通常国会で、自民、公明、民主3党の賛成で成立した。民主党は審議過程では賛否を明確にしていなかったが、要介護度の低い人に対する新予防給付のスタートから3年後の見直し規定が付則に盛り込まれたことなどを理由に、賛成に回った。
与党として法成立を進めた自民党は、改正法施行後も「制度の定着を図る」と主張し、介護予防や地域ケアの充実を訴えている。公明党も同様のスタンスだが、国政選挙などでは「保険料の所得比例化」を掲げるなど、独自色もにじませる。
民主党は法案に賛成した手前、「介護報酬の適切な見直し」などに力点を置き、現行制度を全面否定することは避けてきた。ただ、軽度者へのサービスカットなどの実態を踏まえ、今後反対姿勢を強めていくとみられる。
共産党は国庫負担割合を25%から30%に引き上げることを主張。介護施設の居住費などの全額自己負担化を強く批判している。社民党も国庫負担増による保険料アップの抑制を訴え、家事援助の制限に反対している。
一方で今年の通常国会では、議員立法の「介護従事者処遇改善法」を国民新党を含む全会一致で成立させた。09年度の介護報酬改定を控え、劣悪な労働条件が指摘される介護職員の賃金水準引き上げを目指したものだ。
ただ、条文は介護職の人材確保策として、「09年4月までに施策の在り方について検討し、必要があると認める時は必要な措置を講じる」と記されているだけ。具体的な表現をすることに慎重だった自民党が主導したためだ。民主党は、地域・サービス別に定めた賃金水準を上回る介護事業所への報酬を3%加算することなどを柱とする法案を提出していたが、法成立を優先して独自の法案を取り下げた。
2000年度に始まった介護保険制度は、初の本格的な制度改革となった05年改正で、予防重視に軸足を移した。ただ、給付の抑制に力点を置くあまり、必要なサービスを受けられない人が現れるなど、支障も出ている。一連の給付カットは介護職員の処遇低下も招き、人材確保を難しくしている。介護保険をめぐる現状と課題をみる。
◇「社会で支える」理念
Q そもそも介護保険ってどんな制度?
A 00年4月、それまで主に家族で担ってきた高齢者の介護を、社会全体で支えようという理念で始まった。保険に加入するのは40歳から。40~64歳の人は保険料を医療保険に上乗せして負担する。ヘルパーによる入浴や家事の援助などのサービスを受けられるのは65歳以上だけど、この人たちも主に年金から天引きされる形で保険料を払っている。40~64歳の人は、末期がんなど特定の病気になった場合しか使えない。
Q サービスを受けるにはどうするの?
A 市町村に申請し、どの程度の支援が必要かを示す「要介護認定」=<1>=を受ける必要がある。最も軽い「要支援」と「要介護1~5」の6段階から、05年改正で「要支援1~2」と「要介護1~5」の7段階になった。数字が増えるにつれ介護の必要度が高い。要支援と要介護の境目には一時的に「経過的要介護」の区分も設けた。区分ごとに給付の上限が決まっていて、その範囲内で利用した費用の1割を自己負担する。自己負担を除く給付費は、保険料と税金半々で賄っている。
◇「なるべく元気に…」
Q なぜ制度改革が必要だったの?
A 制度定着とともに給付費が増え=<2>、放置すれば保険料がどんどん跳ね上がる事態になったんだ。施行5年目の見直し規定もあり、団塊世代が65歳となる15年をにらみ給付抑制に転じた。
Q どんな改革?
A 従来は介護が必要になった人のケアに重点が置かれていた。それでは給付費が膨らむ一方なので、介護の必要度が進まないようにするため、予防を重視するシステムに転換した。その「介護予防」の導入と、各種サービスのカット、そして在宅介護を進め、独居や夫婦のみの世帯を地域で支える「地域ケア体制」の整備が柱だね。
Q 介護予防って?
A 軽い要支援1や2と認定された人は、「新予防給付」を受けることになった。リハビリや栄養改善指導のほか、筋力トレーニングによる運動機能向上や、入れ歯の手入れといったメニューもある。
Q 筋トレ指導を受けている近所のおじいちゃんは、「介護認定は受けていない」と言っていたよ。
A 将来介護サービスを受ける可能性がある65歳以上を対象に、市町村が予防に取り組む「地域支援事業」も新設されたんだ。元気になって、なるべく介護保険の世話にならないで、というわけさ。
◇相次ぐサービスカット
Q 認定を受けているのにサービスがカットされたとも聞くよ。
A 要支援1、2の人は、家事をヘルパーと一緒にしたり、ヘルパーに見守ってもらうだけとなった。これまではヘルパーに料理を作ってもらっていた人たちが、野菜を切らなきゃいけなくなったわけだ。自分でやれることまでヘルパーに頼むと身体機能が低下する、と国は説明している。
Q へー。
A 訪問介護報酬がこれまでの1時間半に相当する額で打ち切りになったのも影響が大きい。延長報酬はなく、従来2時間以上の家事援助をしていた業者の中には、サービスをカットして1時間半以内に圧縮するところが少なくないんだ。
Q ほかにはどんな給付削減をしたの。
A 介護施設入所者の食費や家賃相当額、光熱水費を全額自己負担にした。在宅の人とバランスを取るためとされ、標準的な人で月3万円程度の負担増だ。あと06年の医療制度改革で、お年寄りの長期入院施設である療養病床のうち介護保険適用の13万床全廃が打ち出され、現時点から見ても12万床減らされる。
Q 削減効果は?
A 厚労省は12~14年度の給付費について、新予防給付の導入と自己負担増で、本来なら10兆6000億円に達するところを8兆7000億円に抑えられると試算していた。それで65歳以上の平均保険料=<3>=は、何もしないより1100円安い4900円にできると説明してきた。
◇低賃金で人手不足に
Q 介護職員の報酬が問題になっているね。
A 06年度の報酬改定は平均0・5%減で、軽度の人に対するサービス報酬は5%カットされた。改定は3年に1度で、09年度にも報酬改定がある。
Q 09年度もカット?
A いや、介護職の仕事が重労働なうえ賃金が安い=<4>=ため、人材確保が難しくなっている。政府・与党は介護報酬アップの必要性について大筋一致しているけど、財政難の折、改定幅がどの程度かは不透明だ。
Q 人手不足は深刻なの?
A 外国人労働者受け入れの呼び水ともなったしね。経済連携協定(EPA)で、来月にはインドネシアから300人の枠で介護福祉士候補生が来日し、来年はフィリピンからも来る予定だ。「外国人を入れないと介護が立ち行かなくなる」という受け入れ積極派と、「賃金水準を一層引き下げ、人材確保がより困難になる」という慎重派の対立が今もある。
Q 去年、大手の介護事業者が廃業したね。
A 政府は介護への民間参入を後押ししたけど、介護報酬引き下げで企業業績は悪化し、撤退が相次いでいる。そうした状況を、職員数の水増し申請や、保険対象外の介護報酬請求などで不正に乗り切ろうとしたのが、廃業した最大手のコムスンだ。もちろんトップの姿勢が問題なんだけど、今の介護報酬体系ではビジネスとして成り立ちにくいのも事実なんだ。
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<1>増える「軽度」
要介護・要支援の認定者数は、00年度の約256万人から06年度には1.7倍の440万人に増加した。特に「要支援」が05年度に当初の2.2倍の約72万人、「要介護1」も2倍の約142万人と、軽度の人の伸びが大きい。05年改正で、06年度から旧来の要支援と要介護1の一部の人が「要支援1」「要支援2」に移行。予防重視を名目に、サービス量の抑制が図られた。
<2>在宅給付が5割に
利用者の自己負担を除く給付費は、要介護・要支援認定者数の増加に伴い、00年度の3兆2427億円から06年度は1.8倍の5兆8743億円に増えた。当初3割強だった在宅系サービスが06年度には5割弱に増加。ただ05年に施設の食費などが全額自己負担となり06年度の給付費総額の伸びは前年度比1.4%増に抑えられた。
<3>推計上回る保険料
保険料は、3年ごとに改定される。65歳以上の保険料に関する厚労省の試算(04年)によると、介護施設の食費などを全額自己負担とし「介護予防が相当進む」場合も、全国平均の月額保険料は09~11年度4400円、12~14年度4900円に上がる。ただ、この04年時点で3900円とみていた06~08年度の保険料は4090円になっており、今後も推計値を上回る可能性が高い。
<4>賃金は全産業比6~8割
07年6月の介護労働者の賃金は、福祉施設介護職員(フルタイム)の男性で平均月給22万5900円で全産業平均37万2400円の約6割。勤続年数も4.9年で全産業平均(13.3年)を大きく下回る。男性ホームヘルパーは23万9300円。女性は施設職員20万4400円、ホームヘルパー20万7400円で、こちらも全産業平均の8割台だ。
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◇実情無視の「予防」促進--淑徳大准教授・結城康博氏介護保険制度は本来、家族介護の負担を減らす「介護の社会化」を目指した。現状はその理念に逆行している。制度開始以来の極端な市場原理と、形だけの介護予防を導入した05年の制度改正は、「国の失策」だ。
中・高所得層が対象で採算が取れる場合は、企業間競争が正常に機能する。しかし低所得層、重い認知症や精神疾患で介護の手間がかかるのに利益の出ない人は、事業者に敬遠される。介護報酬の2回連続マイナス改定で、事業者の経営は悪化する中、不採算部門まで民間任せにしていることが、介護現場の低賃金化と人材不足の要因にもなっている。
過疎の市町村は高齢化が進み保険料が上昇しているのに、民間サービスが行き渡らない。保険料を都道府県単位にし、民間任せにするのは競争原理が働くサービスに特化して、採算の取れない分野は市町村が担う仕組みに改めるべきだ。
社会保障費削減のため、介護予防を大義名分にするのは大きな誤り。本気できめ細かな予防施策をやるには逆にお金がかかるのに、例えば「ヘルパーが家政婦代わりになっている」と生活援助を削減し、ヘルパーと一緒に家事や散歩で体を動かして状態の悪化を防いできた利用者たちの現実を無視したのが、05年改正だ。そもそも予防は「要介護というリスクが起きないため」のもの。リスクが起きた場合に備える保険制度になじまない。
特にコムスンの不正後は「介護の適正化」が強調され、事業者は介護報酬の返還命令を恐れて自主規制に陥った。不正は許されないが、利用者のニーズに沿ったサービスすら認めない自治体は少なくない。行政の指導監督に介護福祉士ら現場の人間も加え、実情に沿った判断をする体制が必要ではないか。
介護報酬の改定を来年度に控え、「報酬を上げると保険料も上がる」と二者択一論がさかんだ。しかし、無駄な公益法人の廃止などで生じる財源や、上限を10%とする福祉目的の消費税によって、介護保険の公費割合を現行の50%から60~70%にすれば、保険料は上がらない。要介護度の低い人を支援の対象外にするようなやり方は、逆に軽度者が重度化し、将来の財政負担を増大させてしまう。
官僚主導の歳出削減一辺倒から脱し、国民一人一人が「介護崩壊」を防ぐことに自覚を持ってほしい。【出典:毎日新聞】
もともと「介護の社会化」から始まった介護保険。いつのまにか、「介護の市場化」へと変えられてしまった。確かにサービスの選択は広がった。しかし、そんなことを望んだわけでない。社会が責任を持って、安心な介護を提供していくこと。それが、いまや以前のような家族による介護より悪く、まさに自己責任による介護なのだ。もはや国の責任は放棄された。こんな社会を望んだわけではない
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