10 月 19 1999
待合室にて・・・
歯科医院の待合室のことだ。
何とか予約時間に間に合って、待合室で治療の順番を待っていた。
待合室には、70歳以上と思える一組の老夫婦らしき方が、そこに置いてあった雑誌を読んでいた。
多分、誰かに付き添って来られたのだろう。
この歯科医院は、心身にハンディキャップを持った方の専門医院だ。
ここには、私も通っている。
往復三時間あまりという、ちょっとした小旅行気分が味わうことが出来る。
私の近くにも歯科医院があり、心身にハンディキャップを持っている人への受け入れ体制は、 それなりに整ってはいるものの、やはり難しい場面が多くある。
歯科に限らず、住み慣れている地域の中で、心身にハンディキャップを持つ人への医療体制は、必ずしも安心できるものとは言い切れない。
何かあれば、少し遠い専門病院へ行かなければならない。
心身のハンディキャップという「特別なもの」を持っているから、それは仕方のないことなのかもしれない。
心身のハンディキャップに理解がある、そんなかかりつけのお医者さんを見つけることが できればいいのだが。。。
5分ぐらい過ぎた頃だろうか。
50歳代ぐらいの男性が治療を終え、治療室から出て待合室へやってきた。
すると、それまで雑誌を読んでいた老夫婦が、その男性へ慌てて近寄っていった。
おばあさんは、そのまま治療室へ入っていき、何かを話している。
おじいさんは、その男性の手を引きながら待合室の椅子へと座らせていた。
椅子に座った男性は、まだ治療の痛さが残っているのか落ち着かない様子だった。
でも、しっかりとおじさんに手を握られていたためなのか、少しずつ落ち着いていくようだった。
おばあさんが話を終え、再び待合室へ戻ってくるまで、そんなに時間がかからなかった。
おばあさんが現れると、おじいさんが男性に向かって、一言、二言話しかけると、「よいっしょ」というかけ声とともに、男性と一緒に立ち上がった。
おじいさんは、男性の左手をつなぎ、おばあさんは、男性の右手をつなぐ。
エレベーターの中へはいると、三人一緒にこちらの方に向き直り会釈をした。
慌てて頭を下げ、私も挨拶をする。
エレベーターのドアがゆっくりと閉まっていった。
男性と老夫婦は、親子だと思う。
本当に仲のよい雰囲気だった。
むかし、読んだ本の中のこんな一文を思い出していた。
「ある程度、年齢が達すれば、親は子育てという仕事から卒業ができる。
でも、身体に障害がある子どもの親の場合、そんな卒業がないんだ。
例え命尽きて、この世から去ったとしても、幽霊になってもこの子の側にいたい。
いまの願いは、ただ一秒でも長くこの子より長生きをしたい。
子を看取ることができれば、何よりも安心でしあわせなこと。
本当の意味で、この子の親を卒業させてもらえるのは、そんなときなのかもしれない」
心身にハンディキャップを待つお母さんが書いた本だった。
「○○さん、おまちどおさまでした。治療室へお入り下さい」
ぼーっとしていた私に、そんな声が急にかけられた。
男性と老夫婦。
自分自身と重ね合わせていたのかもしれない。
私は、少し気持ちを切り替えて治療室の中へ入っていった。
あの男性と老夫婦が、いつまでも健康でいて欲しいと強く思った。
秋のある日、待合室にて。。。
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